アニメ制作におけるデジタルトランスフォーメーション
アニメ制作へのデジタルトランスフォーメーションの流れ
アニメ制作において、これまでセルアニメ型の形で制作を行っていくスタジオが非常に多かったと思うが、最近だとアニメ制作においても、デジタルトランスフォーメーション(DX)の波が来ている様子である。
例えば、Qzil.laの事例だと、マンガコンテンツ事業を手掛けるコミックスマート株式会社からアニメ制作部門を独立分社させ、Qzil.laがアニメ制作現場に対するデジタル化推進・アニメーターの生産性向上に向けた取り組みを行っていくという。
Qzil.la設立について
※ちなみに、Qzil.laの分社元会社のコミックスマート株式会社はセプテーニホールディングス(デジタルマーケティング事業・メディアプラットフォーム事業中心)よりマンガコンテンツを中心としたIP企画・開発の為の会社として設立した会社。
マンガ・アニメの領域に進出した上で、それらのコンテンツ制作自体のデジタルトランスフォーメーションを推進・展開し、①制作効率化支援サービス、②制作したIPコンテンツの自社メディアプラットフォームに展開していくという事業を行う形となる(以下、コミックスマート株式会社設立時のプレスリリース)。
セプテーニ・ホールディングス、マンガコンテンツ事業を手がけるコミックスマート株式会社を新設|プレスリリース|セプテーニ・ホールディングス
また、直近ではシナモンAIからギークピクチュアズにアニメーション自動着色AIを提供を開始し、アニメ制作の効率化を進める動きも出てきている。
これまでの着色工程は海外外注するケースも多かったが、人の手を掛けてやる以上、工数が掛かり、かつ品質にもバラつきは出るであろうが、AIの場合だと着色する領域・パターン認識を設定する事で、比較的安定した形で着色が自動化され、かつ着色の時間も人が行うより短縮化される。
正直、これまでアニメ制作工程自体は、セル一枚一枚について制作・仕上げ・彩色・・・等を行ってきたことから、熟練した制作スタッフは技能が蓄積し、完成セル数も確保出来ていたが、アニメーターとして新人で入るメンバーは、セル一枚に時間も掛かる、かつ完成数に応じた歩合給であり、基本的にそのままでは生活していけない水準であった。
その様なスタッフ・メンバーの労働環境・工程条件・人員不足の状況に対して、これらAIによる自動化着色や3Dモデリングによる一定の動作の自動化など、スタッフが掛ける制作工程の範囲をカバーできるのは正に革新的。120-150%位のオーバーワークロード分について、そのオーバー分をデジタルでカバー出来るようになってきているのは、制作者側も、コンテンツを見て楽しむ側も喜ばしい限りかと思う。
最近は3Dでのアニメ制作も増えてきていると思うが、メカニック系の3DCGは映える場面も多いし、メカニック系でなく、トーンの柔らかい風合いのアニメでも3DCGで作られているものは多い。そして3Dであることを感じさせない出来でもある(例えば、鬼滅の刃アニメも「水の呼吸」等のエフェクトに3Dが多用されている)。
具体的にはアニメ制作のどの工程が影響するのか?
アニメ制作工程に関しては、ざっくり①プリプロダクション工程、②プロダクション工程、③ポストプロダクション工程の3つに分かれる。
(以下は大まかな内訳)
① プリプロダクション工程
- 企画・脚本・設定
- 絵コンテ・レイアウト② プロダクション工程(※)
- 原画
- 動画
- 仕上げ・彩色
- 美術・背景
- 撮影・カメラワーク・特殊効果
- 編集③ ポストプロダクション工程
- ノンリニア編集
- ビデオ編集
- 音楽・効果→ 完成
(※また、3Dの場合は3Dモデリング・テクスチャ素材、モーション付けシューティング・レンダリングも含まれてくる。レンダリングって何という人はこちら(↓))
【詳細】レンダリングとは何?映像・3DCG・DTM・Webとの関係性 - Render Pool(レンダープール)
上記アニメ制作工程の内、DXによって効率化が進んでいくのは、主に②プロダクション工程領域であり、今回の例で言うと、彩色などの自動化が進んだという例だろう。他にも「美術・背景」の領域など、各シーンの場面場面の背景についても、制作会社・スタジオで制作しているという状況だが、ある程度3DCGでモデリングできるとすると、3DCG内カメラ移動によって、アニメ内の各シーン背景を自由に設定・操ることが出来る(様になるかもしれない...、そこも出来たらめちゃすごい)。
アニメ業界に限らず、昨今ではDX推進と叫ばれている状況ではあるが、本当に制作メンバーがひっ迫しているアニメ制作業界こそ、DX/デジタル化の推進が必要なんですよね。。
アニメ制作現場へのDXの推進展望は?
デジタルトランスフォーメーションの利便性はあるものの今までの工程進め方に慣れている、という状況は確かにある為、DX・デジタル化に慣れるまでに時間が掛かる。
今までの手法でやってきている為、デジタルでの手法に慣れていくのに時間が掛かってしまい、着手することがなかなか難しいスタジオもあるというのは十分理解できる。
とは言えど、デジタル化した方が、プレビュー再生の実施や、デジタル着色、デジタル作成した作品の即時転送など、メリットも大きい為、全般的にガラリと変えるのではなく、まずは、変更できる所から徐々に変えていく、というのが現実的な方向性という事になるんだろうな(勿論、言うは易し、行うは難し、ですね。。)。
DXを推進・提供できる企業がアニメ制作会社・スタジオと提携しながら、アニメ制作そのものの在り方・製作の仕方・ワークフローを変革していくという事が出来ると、アニメ制作の品質・製作期間・制作メンバーの業界定着率も変わっていくでしょうし、クールジャパン戦略の中でのアニメ・コンテンツ推しを進める上でも、喫緊推進が必要な領域ですね。。
今後のDXの潮流に期待です。