製作委員会とクラウドファンディング

エヴァンゲリオン」や「進撃の巨人」など、劇場版アニメについて最後に流れるクレジットを見ると、「×××製作委員会」という名前が載っていますね。

ちゃんと調べる前まで、「劇場版アニメを作る為の委員会(チーム)のようなものを集って作っているのか?」と思っていたのですが、(大きな意味は違ってはいないものの)製作委員会について、商業上意味・意義のある内容だとよくよく調べて理解しました。

製作委員会の意味、意義について、簡単に説明したいと思います。

 

製作委員会とは?

劇場版アニメを制作する際の資金を集める為に、各種企業から出資を募って作られた組織を製作委員会と呼ぶようです(民法的には、任意組合に該当)。

経済産業省関連でのMURC(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)調査報告書が色々詳しそうだったのでリンク貼付(https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H28FY/000847.pdf

 

製作委員会を設置する事で何が良いかというと、

・アニメ制作者:
 → 各企業が出資することで制作資金を集めることができる

 ・出資側:
  → 出資の対価として、興行収入分配を受けることが出来る
  → アニメの二次利用(※)の権利を貰い、権利活用により
    ロイヤリティ収入を受ける

 一つの会社が制作費用を全て拠出してアニメ制作したものの、大失敗に終わって制作費が全く回収できなかった場合、大赤字&倒産の危機に瀕する、という事もありえるので(旧スクウェア時代の「FINAL FANTASY」がそれに近しいですかね。。)財務上のリスクを分散させる意味で企業からのスポンサーシップを受けているという形となります。

また、スポンサー・資金拠出する企業側もアニメ自体の二次利用の為の権利を各々参加企業が貰い受け、その権利を活用して、外部にライセンシングアウト(権利活用の許諾)を行い、ライセンスフィー/ロイヤリティ収入を受けられるという点でメリットもあります。

 

(※参考:アニメ二次利用の種類)
・ビデオ化権(DVD化権)
・映画化権・映画興行権(TVアニメの場合)
・テレビ放送権(オリジナル劇場用アニメの場合)
・ネット配信権
・出版権
・ゲームソフト化権
・商品化権(MD権:キャラクタービジネスに行使する権利)
 →キャラクターを活用して商品を制作・販売した企業からロイヤリティを受け取る
・海外販売権
・その他の諸権利

(注)どの権利を持つかを協議により決め、権利保有した企業がアニメに関する二次利用の為の権利窓口(Window)となる。

     (引用/参考:アニメ業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本(周和システム))

 

製作委員会形式が認知されたのは「新世紀エヴァンゲリオン:劇場版」からと言われている様ですが(その前からも、製作委員会形式同様の形はあり)、直近での劇場版アニメについては製作委員会形式で製作/制作(※)されているものが多数。
(※製作はFinance: 資金調達の文脈、制作はProduction/映像制作の文脈で使い分けされる。ここでもその定義に準じています)

 

製作委員会形式だと、例えば新海誠監督の作品を例に挙げると下記が該当。

秒速5センチメートル(2007年)
言の葉の庭(2013年)
・君の名は(2016年)

 

リスク分散&映画館などでの劇場興行後も各種出資企業がライセンス活用してのビジネスができ、お互いの強み・事業領域を持つ企業同士が主体となって事業のタネを作り出す組合になっているという訳です(デメリットとして、複数の出資企業が参加する為、意思決定が難しくなる、という点などがあるようですが。。)。

 

製作委員会以外の形:クラウドファンディング

最近だと、「えんとつ町のプペル」(西野亮廣さん脚本)がクラウドファンディング&分業型で制作され、2020年12月に公開されたかと思います(製作総指揮も西野さん。他、監督は廣田裕介氏)。

 

クラウドファンディングについては、

・寄付型
・出資型
・購入型

 の3種類がある様ですが、クラウドファンディングに参加するメンバーにとっては、「寄付型」は拠出後に対価なし、「出資型」だと投資に該当して金商法に引っかかる、ということから、「購入型」が選ばれる様子。

 

クラウドファンディング型が製作委員会型と異なるのは、

・製作委員会の場合:
 → 参加者(出資企業)が「出資をして興行収入の分配と二次利用権を得る」

クラウドファンディング
 →「その映像・アニメ等のコンテンツに対するファンであり、
   応援する、そのコンテンツが見てみたい」という形で資金を投じる

 と参加者と資金拠出の意義が少々異なります。

 

また、クラウドファンディングの場合だと、具体的にどの様な人がこのコンテンツを支援してくれるのか、どの位の人数がコンテンツを見たいと思ってくれているのか、届ける相手側の情報も分かり、制作するコンテンツの内容の方向性も、ニーズに合わせていきやすいというメリットがある様です(クラウドファンディングで有名なのは、CAMPFIREMAKUAKEあたりが有名かと思います)。

 

CAMPFIRE

camp-fire.jp

 

MAKUAKE

www.makuake.com

製作委員会型/クラウドファンディング型いずれでの製作か?

製作委員会という企業中心とした出資による組合形式と、支援しようとするファンベースでの形がありますが、どちらがより主流になるのか?

 

この「どちらが主流になるのか?」という問い掛けは適切な問いではなさそうです。

そもそもある程度の規模・技術を駆使する映像コンテンツを制作する場合、制作費用自体が数千万円〜億円単位になることから、個人単位でのクラウドファンディングは資金調達上、成立させることに難しさがあります。

資金的には企業から出資を受けつつ、制作したコンテンツ二次権利を得て、ライセンス活用する、という形が各種企業(映像制作〜放送・マーチャンダイジング(MD)関連など)の資金循環上、成立しやすさは高い。

 

クラウドファンディングはどちらかというと、「まだ市場で出てきていない、欲しいコンテンツをクリエイターにお金を拠出して制作してもらいたい」という人数×拠出額でどれだけ資金調達できるか決まってくる為、支援・ファン人数&一人当たり拠出額が大きければ調達額も集まるかと思いますが、どちらかというとインディーズ・プロトタイプの映像コンテンツを制作する際の資金調達の手段になりそうだと思っています。

 

現時点では「製作委員会形式」という企業出資&二次利用権活用による形が上手くいっていると思うのでこの形は概ね崩れないかと思いますが、クラウドファンディングの興隆で、メジャーデビューしていない様な新進気鋭のクリエイター・プロデューサーがコンテンツ制作する際の、ファンによる下支えで世に出てくる仕組みになりそうですね。

 (※今回記載するにあたって、下記書籍が参考になりました。興味あればご参照下さい)